趣味手帳(読書•小説編)

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読書手帳【オーデュボンの祈り】編

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【タイトル】オーデュボンの祈り

 

【著者】伊坂幸太郎

 

【読書期間】2020年4月〜2020年5月

 

【評価】(五段階)☆☆☆☆☆

 

 

【あらすじ】

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は気が付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島“には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人が許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?

 

 

【感想】

陽気なギャングシリーズで一気に心を奪われ、崇拝する作家さんの一人となった伊坂先生。

この作品を一言で表すとするならシュール。 

 

処女作である、オーデュボンの祈りでも伏線の魔術師(敬意を込めて勝手にそう呼んでいる)は健在で、全体を通して脱帽したのはやはり物語の展開作りです。

‪一つの塊が二つに別れて、平行線のように進んで行く。そこに過去の出来事までも混ざり合い、最終的には一つの塊に戻り物語が終結する。

この後はどんな展開になるのか。考えながら読み進めても絶対に裏切られる。一生追いつけない追いかけっこをしているような気持ちになります。

裏切られた展開作りについて。驚いた箇所が二つあります。

一つ目は、あらすじにあるように、様々な個性的なキャラクターが出てくる中でも一際強烈な印象を放つ、未来が分かって人語を操るカカシ。

このカカシをメインに物語が進んでいくのかと思えば四分の一もいかない段階で殺されてしまいます。表紙の裏面のあらすじには書いてあるのですが、敢えて読まないようにしているので思わず声が出ました。笑

二つ目は、極悪非道といった言葉がぴったりな、伊藤と同級生であり、警察官の城山。

城山が轟を脅して、荻島に向かうこと決めた時、桜に殺されるのだろうなあと直感したのですが、荻島について、伊藤と会うこともなく、そのまま桜の家に行き、殺されてしまうというのが予想外でした。(この辺は本編を読んで見てください)

 

あらゆる登場人物の中で、一番自分が惹かれたのは桜です。

荻島で桜という存在は、天災や災害で人が死ぬのと同じように、人間でありながら人を殺すことが容認されているのです。

桜が人を殺す理由や考え方が、今から二十年も前に刊行された作品であるのに、コロナ渦中にある現代社会にも通ずるものがありました。

人間は地球上に存在するあらゆる生き物よりも醜くて価値がない生き物であると考えている桜は、伊藤に「なぜ人を撃つのか」問われた時に「正気を保つために人を撃つ」と答えます。

陽気なギャングシリーズで登場する、動物しか友達がいない久遠という青年も、桜と同じような考えを持っていることから、この考えは伊坂先生が物語に込めた、「自分自身」なのだろうなあと思います。

自分と似たような考え方や価値観を持っている作家さんに惹かれやすいという傾向が、自分の中であります。

桜や久遠から見える、伊坂先生の「人間」に対する価値観が自分と似通っている所が、伊坂先生に惚れた理由なのだなと、この作品を読んで改めて思いました。

 

自分の中で、面白い作品を書く作家には、二パターンの作品傾向があると思っています。

一つ目は、登場人物をチェスや将棋の駒のように使い、蜘蛛の巣のように伏線を張り巡らせる。構成作りが面白い作家。

二つ目は、構成作りには重きを置かず、地の文や登場人物に「自分自身」をひたすら投影していて、面白い作家。

例を挙げるなら、前者は東野圭吾先生。後者は又吉直樹先生。自分はどちらも読みますが、どちらかといえば後者が好きです。

 

伊坂先生は一見、前者かと思いがちですが、後者の要素もの凄く強いんです。

自分が知っている中では二パターンとも兼ね備えた作家さんは伊坂先生だけだと思っています。

オーデュボンの祈りは処女作ということもあって、陽気なギャングシリーズよりも、作中に込められた「伊坂先生自身」をより深く感じることが出来ました。そこもこの作品の魅力です。

 

最後になります。

作品の感想だか、伊坂幸太郎の魅力語りなのか分からなくなってしまいましたが、小説が好きなのにまだ伊坂作品を手に取ったことがないという方は今すぐにでも読んで欲しいです。

 

[オーデュボンの祈り]は人生を歩み終える直前に、名刺代わりの小説十選を作るとしたら、その中に入るであろうと、現段階で思える作品でした?

 

 

【心に残ったフレーズ】

未来は神様のレシピで決まる

日比野が伊藤を連れて優午がいる田園へ。伊藤が初めて優午と対面したシーン。カオス理論の話から日比野が言ったセリフ(38p)

•ジャングルを這う蟻よりも価値のある人間は、何人だ

・桜の家での桜と伊藤の会話シーンより。桜のセリフ(304p)

・たんぽぽの花が咲くのに価値はなくても、あの花の無邪気な可愛らしさに変わりはありません。人間の価値はないでしょうが、それはそれでむきになることはないでしょう

優午と幼い頃の桜が会話するシーン。優午のセリフ(306p)