趣味手帳(読書•小説編)

記録をすることでより深く記憶に残したい。そんな想いで【趣味手帳】と称して、自分の趣味(読書•写真•小説•ラーメン)に関するブログを初めてみました。このブログのメインは読書•小説になります。気軽に覗いてみてください🙇‍♂️

読書手帳【アルヒのシンギュラリティ】編

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【タイトル】アルヒのシンギュラリティ

 

【著者】河邉徹

 

【読書期間】2020年8月〜2020年9月

 

【評価】(五段階)☆☆☆☆☆

 

【あらすじ】

人間とAIを持ったロボットが暮らす街サンクラウド。天才科学者の息子アルヒは、ひょんなことから幼なじみのサシャ、ロボットのクーとともに、街で最も高い建造物である「知の塔」に忍び込むことになるが……。隠された真実と向き合い、運命に心揺さぶられながらも力強く成長していく少年の姿を描いた長編SF。

 

 

【感想】

あるバンドとの対バンがキッカケでWEAVERと出会い、WEAVERの音楽に触れ、河邉さんが小説を発売知り、処女作である『夢工場ラムレス』を手に取って読んだ時から、小説家河邉徹先生のファンになりました。

 

「処女作からいきなりこんなに面白いの!?本当に初めて小説を書くの!?」

というのが夢工場ラムレスを読んだ後の率直な感想。さらに前回の『流星コーリング』では広島本屋対象を受賞されていました。

 

恐らく、ファンや世間からの期待値もハードルも上がる中での3作目。

個人的にも期待が膨らんでいるのを感じていましたが……。

やすやすと超えられました。

書籍化された3作の中でも一番好きな作品になりました。

 

自分は「音楽を曲無しで、歌詞だけでも楽しめる」と自負している歌詞マニアで、河邉さんも書籍を読む前から好きな作詞家さんの一人ではありました。

河邉さんの書く歌詞はどれも暖かく、優しく背中を押してくれるような印象があります。

河邉さんの歌詞のそういった雰囲気が3作の中で一番出ていたのが、今回の『アルヒのシンギュラリティ』ではないかなと思いました。

 

コアを入れ替えただけで姿形を変えることだって出来るロボット達。

感じる苦しみや嬉しさ悲しみ。その一切合切はプログラムされたモノだけど、確かにそこにあって。

そんなロボット達の心理描写やロボットと共に暮らすサンクラウドの人々を見ていると「心ってなんだろう」と、童心に返り、考えることが出来ました。

 

 

また『アルヒのシンギュラリティ』で一番感銘を受けたところは「世界で一番優しい物語」と銘打っているように、この物語では誰も、怒りや憎悪といった感情に支配された描き方をされていないと感じたところです。

 

途中、いくつかの悲しい場面、胸が苦しい場面が出てきます。

サンクラウドを追われて街の外へ辿り着いたアルヒが、家族同然のように過ごして来たリブターズが人間の手によって破壊されてしまいます。

人間に対し、激しい恨みを持ってもなんらおかしくない場面ですが、

「人間を憎むなよ。これはな、心の問題なんだよ」

というリブートの言葉を胸に、アルヒは最後まで人間を恨むことなく生き抜きます。

 

また、ロボットの存在を危惧して全てをゼロに戻そうとするスタン。

物語でいう、いわばラスボス的な存在です。

全てをゼロにする、言い換えれば、多くの人々を虐殺しようとしているスタンのことを、もっと極悪非道な表現を用いても良い筈ですが、スタンにもスタンの事情があって、正義がある。

スタンの行為を止めようとするアルヒも、それは承知していて……。

 

河邉さんの書くこの物語では、登場人物の誰一人、落とし入れるような否定するような書き方がされておらず、それがまさに「世界で一番優しい物語」の所以だなと感じました。

 

 

いつかの日かアニメ映画化して欲しいと願って止みません🤖

そして4作目の期待が更に高まりました✨

 

 

【心に残ったフレーズ】

・「人間はバカだ? 待て待て、人間を憎むなよ。これはな、心の問題なんだよ」

街の外でアルヒのコアを奪いに来た人間からアルヒをリブーターズが守るシーン。リブートがアルヒに向かって言ったセリフ。

(p211の16行目)

 

・「だけど僕は気づいたんだ。生きる意味を持って生まれてこなくても、生きる意味は自分で見つけ出すことができる」

スタンがサンクラウドをゼロにする爆弾のスイッチを押し、絶望したサシャを見てアルヒが隠された力を発揮されるシーン。

(p340の5行目)

 

・「誰かのためを願った時にだけ、奇跡の力を使うことができる。きっと人間だって、そういう風にできているんじゃないかな」

アルヒが、スタンの起動させた爆弾を、隠された力を使って空へと運ぶ間際にサシャに言ったセリフ。

(p341の10行目)

 

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